
文/絵 Jon Klassen | |
Print length 32 pages | 出版年月日 2019/3/5 |
230L | |
7-9歳 |
『I Want My Hat Back』の紹介
1.本の紹介
『I Want My Hat Back』は、Jon Klassenによる絵本で、彼の「Hat Trilogy(三部作)」の最初の作品です。本作は、シンプルなイラストと短い文章でありながら、ブラックユーモアと意外な結末が特徴的な、ユニークなストーリーが展開されます。
「The funniest book ever written(史上最も面白い本)」とGuardian紙が評し、Telegraph紙も「One of the simplest yet most original and entertaining picture books around(最もシンプルでありながら、最もオリジナルで面白い絵本の一つ)」と称賛しています。
この作品は、子ども向けの絵本でありながら、大人も楽しめるブラックユーモアがちりばめられており、読む人によってさまざまな解釈ができる魅力的な一冊です。
2.あらすじ
主人公のBearは、自分の帽子がなくなっていることに気づきます。彼は森の中の動物たちに順番に尋ねて回ります。
"Have you seen my hat?"
しかし、どの動物も「見ていない」と答えるばかり。特にRabbitは明らかに不自然な態度で、こう言います。
"I haven’t seen any hats anywhere. I would not steal a hat. Don’t ask me any more questions."
Bearはそのまま他の動物に聞き続けますが、なかなか手がかりは得られません。諦めかけたそのとき、Deerがこう尋ねます。
"What does your hat look like?"
その瞬間、Bearはすべてを思い出します――自分の帽子をかぶっていたのは、まさにRabbitだったのです!
怒りに燃えたBearはすぐに引き返し、帽子を取り戻します。しかし、最後の場面ではRabbitの姿はなく、代わりにBearはこう言うのです。
"I would not eat a rabbit. I would not eat a rabbit. Don’t ask me any more questions."
明確な描写はないものの、Rabbitがどうなったのかは想像に任されるという、Jon Klassenならではのブラックユーモアが光るエンディングとなっています。
3.感想
大人も楽しめる絵本
最初に読んだとき、「シンプルな話なのに、なんてクセになる絵本なんだ!」と驚きました。文章は少なく、登場するキャラクターの会話だけで進んでいきますが、そのやりとりや表情が絶妙に面白いのです。
特に、Rabbitの怪しすぎるセリフと態度は何度読んでも笑えます。大人が読むと、「これは確実にウソをついてるな……」と分かるのですが、子どもにとっては「本当に知らないのかな?」と考えながら読む楽しさがあるでしょう。
シンプルだけどクセになるデザイン
Jon Klassenのイラストは、非常にシンプルですが、それが逆にキャラクターの表情を際立たせています。特にBearが帽子を思い出すシーンの「目」だけで表現された怒りは、言葉がなくても伝わる名シーンです。
また、背景はほぼ単色で構成されており、キャラクターが際立つデザインになっています。この無駄をそぎ落としたスタイルが、読者の想像力をかき立てる要素の一つになっています。
ブラックユーモアと「怖さ」
結末については賛否が分かれるところかもしれません。BearはRabbitに何をしたのか、直接的な描写はありませんが、明らかに「消えている」ことが示唆されています。「子どもに読ませてもいいのか?」と考える親もいるかもしれませんが、この「想像の余地」があるからこそ、多くの読者を惹きつけるのだと思います。私自身は、未就学児が楽しむ絵本ではないかな、と感じました。
4.作者について
Jon Klassen
Jon Klassenは、カナダ・オンタリオ州出身の作家・イラストレーターです。もともとはアニメーション映画のイラストレーターとして活動しており、その経験を活かした独特のスタイルで数々の絵本を手がけています。
彼の代表作には、本作を含む「Hat Trilogy」――
- 『I Want My Hat Back』(本作)
- 『This Is Not My Hat』(Caldecott Medal受賞)
- 『We Found a Hat』
があり、特に『This Is Not My Hat』は、Caldecott MedalとKate Greenaway Medalの両方を受賞するという快挙を成し遂げました。
また、Mac Barnettとの共作である『Extra Yarn』や『Sam and Dave Dig a Hole』なども人気が高く、彼の作品は大人から子どもまで幅広い層に愛されています。最近では、彼の「Shapesseries」がApple TV+のストップモーションアニメ『Shape Island』として映像化されました。
現在はアメリカ・ロサンゼルス在住で、新作絵本の制作を続けています。
5.おすすめポイント
① ユーモラスなストーリーとクセになるセリフ
短い会話のやりとりだけで進むストーリーは、リズムが良く、声に出して読むとさらに面白さが増します。「I want my hat back!」というフレーズは、一度読むと忘れられない名セリフです。
② シンプルだけど表情豊かなイラスト
Jon Klassenのイラストは、シンプルながらキャラクターの感情が伝わる絶妙なデザイン。Bearが怒りを爆発させる瞬間の「目」だけの表現は、まさに圧巻です。
③ 子どもの想像力を刺激するオープンエンディング
ラストシーンではRabbitが突然消え、Bearの不自然な言い訳が登場します。「本当に食べちゃったの?」という問いかけが、読者の想像力を刺激します。
④ ブラックユーモアを楽しめる大人向けの要素
大人もクスッと笑えるブラックユーモアが満載。「絵本=かわいらしい」という概念を覆す、独特の世界観を味わえます。
⑤ シリーズとして楽しめる
この作品が気に入ったら、続編である『This Is Not My Hat』『We Found a Hat』もおすすめ。三作を通じて、「帽子をめぐる物語」がどのように展開するのかを楽しめます。
6.まとめ
『I Want My Hat Back』は、シンプルなストーリーながら、ブラックユーモアや独特の結末が読者の記憶に残る絵本です。小学生の子どもはもちろん、大人も楽しめる作品なので、親子で一緒に読んで、物語の結末について話し合うのも面白いでしょう。
「帽子を盗んだらどうなるのか?」――その答えを知りたいなら、ぜひこの絵本を手に取ってみてください。